聞いてみるとすぐ判った。
金栄の家は甚だ富んでいて村の保正《ほしょう》をしていた。興哥と慶娘の二人はそれを尋ねて往った。
「あなた様は、何方様でございます」
金栄はもう興哥の幼顔を忘れていた。
「私は崔興哥じゃ」
金栄にはまだ判らないので、興哥は父の姓名から自分の幼名まで言った。
「それでは崔様の若旦那様じゃ、まあ、まあ、こんなに御成人なさいまして」
金栄は興哥を上へあげて大いに歓待した。そこで興哥は事情を話して、二人で厄介になることになったが、金栄は旧主《きゅうしゅ》に仕えるようにして二人の面倒を見た。
二人はそれがために何の不自由もなく、一年ばかりの日を送ったが、その時になって慶娘は興哥に言った。
「お父さんとお母さんに知れるのが恐ろしかったから、こうしてきましたが、この頃、お父さんやお母さんのことが気になってたまりません、それに、お父さんやお母さんは、その当座は憤っていらしても、他に児《こども》はないし、帰ってあげたら、かえって悦んでくださるだろうと思いますが、あなたはどう思います」
興哥も慶娘と同じ考えを持っていた。二人は金栄に別れて揚州へ帰った。そして、舟が著いた
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