ゃ、しかし、あれは歿くなっても、わしはやっぱりあんたの婦翁《しゅうと》じゃ、いつまでも助けあって暮そう、それにあんたも、もうお父さんもお母さんもないから、わしの家にいるがいい」
「はい」
「では、あれの位牌に、あんたの帰ったことを知らしてやろう」
そこへ興娘の母親が出てきた。三人は打ち連れて興娘の位牌を置いてある室へ往って、その前で楮銭《ちょせん》を焚いたが、三人の眼には新しい涙が湧いていた。
興哥は防禦の家に止まることになり、自分の室にあてがわれた門の側の小斎へ入った。
そのうちに清明の節となった。防禦の家では女《むすめ》が新しく歿くなっているので、下男と興哥に留守をさして、皆で墓参に出かけて往った。
興哥はその日は軽い心地になって、庭の中を歩いたり、下男と話をしたりした。陽が入ってうっすらと暮れかけた時、彼は小斎の前の壁にもたれて立っていた。
二挺の肩輿《かご》が表門を入ってきた。興哥はあの後か前かに興娘の妹の慶娘《けいじょう》がいるだろうと思って、うっとりとしてそれを見送っていた。と、後ろの肩輿の窓から小さな光るものが落ちた。興哥はそこへ歩いて往った。黄金の釵《かんざ
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