「え」
興哥は防禦の顔を見た。防禦の眼は曇っていた。
「あんたと許嫁《いいなずけ》になっていた興娘《こうじょう》も、病気でなくなったのじゃ」
「え、興娘さんが」
驚きに見ひらいた興哥の眼が悲しそうになった。
「あんたには気のどくだが、しかたがないことじゃ、諦めておくれ、半年ほど患ってて、二ヶ月前に歿くなったのじゃ、あんたの処から許嫁の証に貰っていた鳳凰の釵《かんざし》は、あれは棺の中へ入れてやった。長い間あんたの方から便りがないものだから、妻《かない》は嫁入りの時期を失うから、他から婿を取ると言ったが、わしは、あんたのお父さんと約束があるから、それには耳を傾けなかった、あれもまた決して、他へ往こうとせずに、あんたのことを言い言い死んで往ったのじゃ、あれは十九じゃ」
防禦の声はかすれて聞えた。興哥はもう泣いていた。
「申しわけがありません、父なり私なりが、早く迎えにあがるはずでしたが、母が歿くなりましたので、その喪でも明けたらと思っておりますと、また父が歿くなりましたので、またまた喪に籠りまして、喪が明けるなり急いで参りましたが、申しわけがありません」
「いや、こうなるのも運命じ
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