す」
「あんたにはわるいことはない、わしは、あんたが黙って出て往ったから、わしの待遇がわるかったじゃないかと思って、心配しておった、よく帰ってきてくれた」
「誠に申しわけがありません、どうかお許しを願います」
興哥は顔をあげなかった。防禦は不審そうに言った。
「あんたは何か考え違いをしてるだろう、あんたには何も罪はないじゃないか」
「そうおっしゃられると、私は穴にでも入りとうございます、私は、お嬢さんとあんなことになりまして、二人で鎮江の方へ逃げておりましたが、お二人のことが気になりますので、お叱りは覚悟のうえで、帰って参りました、どうか二人の罪をお許しください」
防禦は呆れて眼を瞠った。
「あんたは夢でも見ているのではないか、慶娘は一年ばかりも病気で寝ておる、あんたは確かに夢を見ておる」
「お家の恥辱になることですから、そうおっしゃるでしょうけれども、夢でも作り事でもありません」
「そんなばかばかしいことはない、確かに女は寝ておる」
「いや、お嬢さんは私といっしょに帰ってきて舟の中に待っております」
「そんなばかばかしいことがあるものか、あんたはどうかしておる、女は奥で寝ておる」
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