、精進にして出すがよかろう」
五右衛門は承知して出て往った。横山は吉平を見て、
「他にまだ云いのこすことはござらぬか」
「もう他には、何もございません」
二人はそれきり黙って坐っていた。其処へ五右衛門が榧の膳を持って来た。茶碗に水漬の飯を盛り皿には一|撮《つま》みの塩も入れてあった。
「甚だ粗末でござるが、これを」
横山はその膳を吉平の前へ置いた。
「これは忝けない、ではいただきます」
吉平は茶碗を持ってその水漬の飯を喫《く》いはじめた。そして、それがなくなってしまった。
「五右衛門、おかわりをいたせ」
横山が云うと五右衛門は恐る恐る手をだした。吉平はその手に空いた茶碗を渡した。五右衛門は飯を盛りに往って直ぐ持って来た。
「さあ、どうぞ」
五右衛門は声を慄わしていた。吉平はそれを受けて静に喫った。
「五右衛門、おかわりをいたせ」
吉平は茶碗を下に置いた。
「もう、これでたくさんでございます、では、これでお暇《いとま》申します」
吉平はこう云って頭をさげてから身を起した。横山も後からそれを送って出た。そして、吉平が門口に出ようとすると、五右衛門と同役の清太夫の二人は、そっ
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