取次の者はがたがた慄えながら源兵衛の傍へ往ってそれを取次いだ。
「夢でも見たのではないか、そんなことがあるものか」
「それでも、あ、あすこに立っております」
 横山は不審に思いながら玄関の方へ出て見た。なる程浜田吉平が立っている。
「吉平殿か、何か云いたいことがあるなら、あがるがよかろう」
 横山がこう云って体を寄せると、吉平はそのまま玄関へあがって静に横山と向き合って坐った。
「私が今日参上いたしましたは、他のことでもございません、紀州の師匠から、弓の免許状を送って来ることになっております、もしまいりましたなら、何とぞ封のままで火の中に入れてくださるように、これを申しのこしたから、重ねておねがいにあがりました」
「委細承知いたした、しかし、もう飯時でござるから、水漬なりと進ぜよう、ゆるゆる話して往かるるがいい」
 横山は平然としていた。吉平の顔にも人懐しい影が見えた。
「それでは折角のお詞でございますから、饗応《ごちそう》にあずかりましょう」
 横山は静に手を打って人を呼んだ。横目の五右衛門と云うのが顔をだした。
「吉平殿に水漬を進ぜるから、檜物産から新らしい榧《へぎ》をとりよせて
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