ば武士の面目の立つように、おとりはからいいたそう」
「それでは家へ帰って、何分の御沙汰を待ちましょうか」
吉平はこう云って横山の玄関を出て往った。横山はその後姿を見送った。
横山のとりあつかいによって吉平は成敗を受けずに切腹と云うことになった。横山がその検使であった。
横山は一人の下役を従えて吉平の家へ往った。吉平は表座敷の塵を払うて自殺の用意をして待っていた。
「いろいろ御厄介をかけてあいすみません、では後のところをよろしくお願い申します」
吉平は白装束になって、前の三宝に載せた短刀を執りあげた。
「刃合を見よう」
こう云って右の太股へその短刀を突き刺した。血がその傷口に湧いた。
「よく切れます」
彼はその短刀を抜いて、横山の顔を見て微笑した。そして、腹に突立てて見事に十文字に切って倒れた。横山には介錯の必要がなかった。
義人はこうして短い一生を終った。
その翌日のことであった。正午近くなって横山源兵衛の玄関|前《さき》へ吉平の姿が現れた。
「私は昨日、御苦労を相かけた浜田吉平でございますが、申しのこしたことがございましたから、参上いたしました、お取次を頼みます」
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