に鬢《びん》の毛をふり乱して、それが蝋燭《ろうそく》のような手をさしのべて新三郎の頸《くび》にからませていた。と、其の時、傍にいた丸髷の、これも腰から下のない女が起ちあがった。同時に伴蔵は眼さきが暗《くら》んだ。
三
伴蔵は顫《ふる》いながら家《うち》へ帰り、夜の明けるのを待ちかねて白翁堂勇斎の家へ飛んで往った。そして、まだ寝ていた勇斎を叩き起した。
「先生、萩原さまが、たいへんです」
勇斎は血の気《け》のない伴蔵の顔をきっと見た。
「どうかしたのか」
「どうのこうのって騒ぎじゃございませんよ、萩原さまの処へ毎晩女が泊りに来ます」
「壮い独身者《ひとりもの》のところじゃ、そりゃ女も泊りに来るだろうよ。で、その女が悪党だとでも云うのか」
「そう云うわけではありませんが、じつは」
伴蔵はそれから前夜の怪異をのこらず話した。すると勇斎が、
「此《こ》のことは、けっして人に云うな」
と云って、藜《あかざ》の杖をついて伴蔵といっしょに新三郎の家《うち》へ往った。そして、いぶかる新三郎に人相を見に来たと云って、懐《ふところ》から天眼鏡を取り出して其の顔を見ていたが、
「萩
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