原氏、あなたの顔には、二十日を待たずして、必ず死ぬると云う相が出ている」
と云った。新三郎はあきれた。
「へえ、私が」
「しかたがない、必ず死ぬ」
そこで新三郎が何とかして死なないようにできないだろうかと云うと、勇斎が毎晩来る女を遠ざけるより他に途《みち》がないと云ったが、新三郎は勇斎がお露のことを知るはずがないと思っているので、
「女なんか来ませんよ」
と云った。すると勇斎が、
「そりゃいけない、昨夜《ゆうべ》見た者がある、あれはいったい何者です」
新三郎はもうかくすことができなかった。
「あれは牛込《うしごめ》の飯島と云う旗下の娘で、死んだと思っておりましたが、聞けば事情があって、今では婢《じょちゅう》のお米と二人で、谷中の三崎に住んでいるそうです。私はあれを、ゆくゆくは女房にもらいたいと思っております」
「とんでもない、ありゃ幽霊だよ、死んだと思ったら、なおさらのことじゃないか」
しかし、新三郎は信じなかった。勇斎は其の顔をじっと見た。
「それじゃ、おまえさんは、その三崎村の女の家《うち》へ往ったことがありなさる」
新三郎は無論お露の家は知らなかった。それに、新三郎は
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