勇斎の態度があまり真剣であるから何となく不安を感じて来た。
「先生、それなら、これから三崎へ往って調べて来ます」
そこで新三郎は三崎村へ往った。そして、彼方此方《あちらこちら》と尋ねてみたが、それらしい家がないので、不思議に思いながら帰ろうと思って新幡随院《しんばんずいいん》の方へ来た。新三郎はもうへとへとになっていた。其の新三郎が新幡随院の境内を通りぬけようとしたところで、堂の後《うしろ》になった墓地に、角塔婆《かくとうば》を建てた新しい墓が二つ並んでいた。そして、其処には牡丹の花のきれいな燈籠が雨ざらしになっていた。新三郎の眼は其の牡丹燈籠に貼りついたようになった。それは彼《か》のお米がお露とともに毎夜|点《つ》けて来る燈籠とすこしも変わらなかった。新三郎はもしやと思って寺の台所へ往って聞いてみた。すると其処にいあわせた坊主が、
「あれは牛込の旗下《はたもと》で、飯島平左衛門と云う人の娘と、婢の墓だ」
と云った。それを聞くと新三郎は蒼くなって走った。そして、其の足で勇斎の処へ往って右の事情を話した。
「占いで、来ないようにできますまいか」
「占いで幽霊の処置はできん。彼《あ》の
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