新幡随院の和尚《おしょう》はなかなか豪《えら》い人で、わしも心やすいから、手紙をつけてやる、和尚の処へ往って頼んでみるがいい」
 新幡随院の住持は良石《りょうせき》和尚と云って、当時名僧として聞えていた。新三郎は勇斎から手紙をもらって良石和尚を尋ねて往った。良石和尚は新三郎を己《じぶん》の室《へや》へ通して其の顔を見ていたが、
「おまえさんの因縁は、深いわけのある因縁じゃ、それはただいちずにおまえさんを思うている幽霊が、三世も四世も前から、生きかわり死にかわり、いろいろの容《さま》を変えてつきまとうているから、遁《のが》れようとしても遁れられないが」
 と云って、死霊除《しりょうよけ》のお守《まもり》をかしてくれた。それは金無垢《きんむく》で四寸二分ある海音如来《かいおんにょらい》のお守であった。そしてそれとともに一心になって読経《どきょう》せよと云って、雨宝陀羅尼経《うほうだらにきょう》という経文《きょうもん》とお札《ふだ》をくれた。
 新三郎は良石和尚にあつく礼を云って帰って来たが、帰ってくると早速勇斎に手伝ってもらって、和尚の云ったようにお札をいたる処に貼り、海音如来のお守を胴巻
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