。ちょうど七日目の夜であった。孫店に住む伴蔵は、毎夜のように新三郎の家から話声が聞えて来るので、不思議に思いながら新三郎の家へ往って、そっと雨戸の隙間から覗《のぞ》いてみた。比翼蓙《ひよくござ》を敷いた蚊帳の中には、新三郎が壮い女と対《むか》いあって坐っていた。伴蔵は目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]った。と、其の時女の声で、
「新三郎さま、私がもし勘当されました時は、お米と二人をお宅へおいてくださいます」
すると新三郎の声で、
「引きとりますとも、あなたが勘当されたら、私はかえってしあわせですよ。しかし、貴女《あなた》は一人娘のことですから、勘当される気づかいはありますまい。後《のち》になって、生木を裂かれるようなことがなければと、私はそれが苦労でなりません」
「あなたより他に所天《おっと》はないと存じておりますから、たとえお父さまに知れて、手討ちになりましてもかまいません、そのかわり、お見すてなさるとききませんから」
伴蔵は女の素性が知りたかった。伴蔵は伸びあがるようにして、もいちど雨戸の隙間から室の中へ眼をやった。島田髷の腰から下のない骨と皮ばかりの女が、青白い顔
前へ
次へ
全19ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング