は、
「今日は盆のことでございますから、彼方此方《あっちこっち》おまいりをして、晩《おそ》く帰るところでございます」
と云った。新三郎はお露が無事でいたので喜《うれ》しかった。
「そうですか、私はまた此のとおり、お嬢さんの俗名を書いて、毎日念仏しておりました」
「それほどまでにお嬢さまを」思い出したように、「それでお嬢さまは、たとえ御勘当になりましても、斬《き》られてもいいから、萩原さまのお情を受けたいとおっしゃっておりますが、今夜お泊め申してもよろしゅうございましょうか」
それは新三郎も望むところであったが、ただ孫店に住む白翁堂勇斎《はくおうどうゆうさい》と云う人相観《にんそうみ》が、何かにつけて新三郎の面倒を見ているので、それに知れないようにしなくてはならぬ。
「勇斎と云うやかましや[#「やかましや」に傍点]がいますから、それに知れないように、裏からそっと入ってください」
そこでお米はもじもじ[#「もじもじ」に傍点]しているお露を促《うなが》して裏口から入り、とうとう其処で一泊した。そして、翌日はまだ夜の明けないうちに帰って往ったが、それからお露は毎晩のように新三郎の処へ来た
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