て、
「まあお入りなさい、其処の折戸をあけて」
と云うと二人が入って来た。後の壮《わか》い女はお露であった。お米は新三郎に、
「ほんとに思いがけない。萩原さまは、お歿《な》くなり遊ばしたと云うことを伺っていたものでございますから」
と云った。そこで新三郎は志丈の云ったことを話して、
「お二人が歿くなったと云うものだから」
と云うと、お米が、
「志丈さんがだましたものですよ」
と云って、それから二人が其処へ来た理《わけ》を話した。それによると平左衛門の妾《めかけ》のお国《くに》が、某日《あるひ》新三郎が死んだと云ってお露を欺したので、お露はそれを真《ま》に受けて尼になると言いだしたが、心さえ尼になったつもりでおればいいからと云ってなだめていると、今度は父親が養子をしたらと云いだした。お露はどんなことがあっても婿はとらないと云って聞かなかったので、とうとう勘当同様になり、今では谷中《やなか》の三崎《みさき》でだいなしの家《うち》を借りて、其処でお米が手内職などをして、どうかこうか暮しているが、お露は新三郎が死んだとのみ思っているので、毎日念仏ばかり唱えていたのであった。そして、お米
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