ンと云う下駄の音が聞えて来た。新三郎はやるともなしに其の方へ眼をやった。三十位に見える大丸髷《おおまるまげ》の年増《としま》が、其の比《ころ》流行《はや》った縮緬細工《ちりめんざいく》の牡丹燈籠を持ち、其の後から文金の高髷《たかまげ》に秋草色染の衣服を著《き》、上方風の塗柄《ぬりえ》の団扇《うちわ》を持った十七八に見える※[#「女+朱」、第3水準1−15−80]《きれい》な女が、緋縮緬《ひぢりめん》の長襦袢《ながじゅばん》の裾《すそ》をちらちらさせながら来たところであった。新三郎は其の壮《わか》い女に何処かに見覚えのあるような気がするので、伸びあがるようにして月影にすかしていると、牡丹燈籠を持った女が立ちどまって此方《こちら》を見たが、同時に、
「おや、萩原さま」
と云って眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》った。それは飯島家の婢《じょちゅう》のお米《よね》であった。
「おやお米さん、まあ、どうして」
新三郎は志丈からお露が死ぬと間もなくお米も死んだと云うことを聞いていたので、ちょっと不思議に思ったが、すぐこれはきっと志丈がいいかげんなことを云ったものだろうと思っ
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