平左衛門はお露の方をきっと見た。
「かりそめにも、天下の直参の娘が、男を引き入れるとは何ごとじゃ、これが世間へ知れたら、飯島は家事不取締とあって、家名を汚し、御先祖へ対してあいすまん、不孝不義のふとどきものめが。手討ちにするからさよう心得ろ」
 新三郎が前へ出た。
「お嬢さまには、すこしも科《とが》はございません、どうぞてまえを」
「いえいえ、わたしが悪うございます。どうぞわたしを」
 お露は新三郎をかばった。平左衛門は刀を脱《ぬ》いた。
「不義は同罪じゃ、娘からさきへ斬る」
 平左衛門はそう云いながら、いきなりお露の首に斬りつけた。お露の島田首《しまだくび》はころりと前へ落ちた。新三郎が驚いて前へのめろうとしたところで、其の頬《ほお》に平左衛門の刀が来た。新三郎は頬から腮《あご》にかけて、ずきりとした痛みを感じた。
「旦那、旦那、たいそう魘《うな》されてますが、おっそろしい声をだして、恟《びっく》りするじゃありませんか、もし旦那」
 新三郎は其の声に驚いて眼を開けた。伴蔵が枕頭《まくらもと》へ来て起しているところであった。新三郎はきょろきょろと四辺《あたり》を見まわした。
「伴蔵、俺
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