おみねは新三郎の後《うしろ》へ廻って洗いだした。そして、何かと云いながら襟を洗うふうをして伴蔵の方を見せないようにした。
 其の時伴蔵は彼《か》の胴巻から金無垢のお守を取り出していた。伴蔵とおみねは、お露から百両のお礼をするから、お札の他にお守を隠しておいてくれと云われているので、行水に事よせてそれを盗もうとしているところであった。
 伴蔵は海音如来のお守を抜きとると、其のあとへ持って来ていた瓦《かわら》で作った不動様の像を押しこんで、もとのように神棚へあげた。そして、新三郎の行水が終ると、二人はそしらぬ顔をして帰って来たが、帰って来るなり、海音如来のお守を羊羹箱《ようかんばこ》の古いのへ入れて畑の中に埋め、今夜はお露たちが百両の金を持って来るから、其の前祝いだと云って、二人でさし対《むか》って酒を飲んでいた。
 其のうちに八つ比《ごろ》になった。そこでおみねは戸棚の中へかくれ、伴蔵が一人になってちびりちびりとやっていると、清水《しみず》の方からカラコン、カラコンと駒下駄の音が聞えて来たが、やがてそれが生垣の傍でとまったかと思うと、
「伴蔵さん、伴蔵さん」
 と云って、お米とお露が
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