縁側へ寄って来た。伴蔵が顫えながら返事すると、お米が、
「毎晩あがりまして、御迷惑なことを願い、まことに恐れいりますが、まだ今晩もお札が剥れておりませんから、どうかお剥しなすってくださいまし」
「へい剥します、剥しますが、百両の金を持って来てくだすったか」
「はい、たしかに持参いたしましたが、海音如来のお守は」
「あれは、他へかくしました」
「さようなれば百両の金子をお受け取りくださいませ」
 お米はそう云って伴蔵の前へ金を出した。それはたしかに小判であった。まさか幽霊が百両の金をと内心疑っていた伴蔵は、それを見るともう怖いことも忘れて、
「それでは、ごいっしょにお出《い》でなせえ」
 と云って、二間|梯《ばしご》を持ち出して新三郎の家《うち》の裏窓の所へかけ、顫い顫いあがってお札を引剥《ひっぺ》がした機《ひょうし》に、足を踏みはずして畑の中へ転げ落ちた。
「さあお嬢さま、今晩は萩原さまにお目にかかって、十分にお怨《うら》みをおっしゃいませ」
 お米はお露を促して裏窓から入って往った。
 翌朝になって伴蔵は、欲にからんでやったものの、さすがに新三郎のことが気にかかるので、おみねを伴れて
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