》の花のようなその花を摘んで頭髪にさした。母親は時どきそれを見つけて叱ったが嬰寧はついに改めなかった。
ある日、西隣の男がこれを見つけて、じっと見とれたが、嬰寧は逃げもせずに男の方を見て笑った。西隣の男は女が自分に気があると思ったので、心がますますとろけた。と、女は牆《かきね》の下に指をさして笑ってからおりていった。西隣の男は女が晩にここへ来いといったと思ったので、大悦びで日の暮れるのを待ちかねて牆の下へいった。いってみると果して女が来ていた。西隣の男はすぐ抱きかかえた。と体の一部が錐《きり》で刺されたように痛さが体にしみわたったので、大声に叫ぶなり※[#「足へん+倍のつくり」、第3水準1−92−37]《たお》れてしまった。その男の女と思ったのは一本の枯木であった。その男の父親は悴《せがれ》の叫び声を聞きつけて走って来て、
「おい、どうした、どうした。」
といったが悴は呻《うめ》くのみで何もいわなかった。そこへ細君が来たので悴は事実を話した。そこで火を点《つ》けて枯木の穴を照らしてみた。そこには小さな蟹《かに》のようなさそりがいた。父親は木を砕いてさそりを殺し、悴をおぶったが、夜半
前へ
次へ
全25ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング