頃になって悴は死んでしまった。
西隣では王を訟《うった》えて、嬰寧が怪しいことをするといった。村役人はかねてから王の才能を尊敬して、篤行の士と言うことを知っていたので、西隣の父親のいうことは誣《し》いごとだといって、杖《むち》で打たそうとした。王は西隣の父親のためにあやまってやったので、西隣の父親は釈《ゆる》してもらって帰って来た。
王の母親は嬰寧にいった。
「馬鹿なことをするから、こんなことになるのだよ。もう笑うことはよして、悲しいことも知るがいいよ。村役人は幸にわかった方だから、よかったものの、これがわからない役人だったら、きっとお前を役所で調べたのだよ。もしこんなことがあったら、あれが親類へ顔向けができますか。」
嬰寧は顔色を正していった。
「もう、これからは、決して笑いません。」
母親はいった。
「人は笑わないものはないから、笑ってもいいが、ただ時と場合を考えなくちゃ。」
嬰寧はこれからはまたと笑わなかった。昔の知人に逢ってもついに笑わなかった。しかし、終日|淋《さび》しそうな顔はしなかった。
ある夜、嬰寧は王といる時に、涙を流した。王は不思議に思って訊《き》いた。
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