に立っているところを窺《のぞ》いてみた。影がはっきりと地に映っていてすこしも怪しいことはなかった。そこで母親はその日が来ると華かな衣装を着せて儀式の席へ出したが、嬰寧がまた笑いだして顔をあげることができないので、儀式はとうとうできずに終った。王は嬰寧が馬鹿なために二人の間の秘密を漏らしはしないかと恐れたが、それは決して漏らさなかった。
母親が心配したり腹を立てたりする時に、嬰寧が傍へいって一度笑うと、それでなおってしまった。婢《じょちゅう》や奴《げなん》が過《あやま》ちをしでかして、主婦に折檻《せっかん》せられるような時には、嬰寧の所へ来て、一緒にいって話してくれと頼むので、一緒にいってやるといつも免《ゆる》された。
嬰寧は花を愛するのが癖になっていた。そっと金の釵《かんざし》を質に入れて、その金で親類の家をかたっぱしから探して、佳《よ》い花の種を買って植えたが、数月の中に、家の入口、踏石《ふみいし》、垣根《かきね》、便所にかけて花でない所はなくなった。庭の後に木香《もっこう》の木の棚があった。それは元から西隣の家との境にあった。嬰寧はいつもその棚の上に攀《よ》じ登って、薔薇《ばら
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