が女の子を生んで、嬰寧という名をつけ、むつきに包んで牀《とこ》の上に寝かしてあるのを、家の者は皆見ていたのだ。姑丈《おじ》が没くなった後でも、狐が時おり来ていたが、後に張天師のかじ符《ふだ》をもらって、壁に貼《は》ったので、狐もとうとう女の子を伴れていったのだか、それじゃないかね。」
皆で疑っている時、室の中からくつくつと笑う声が聞えて来た。それは嬰寧の笑う声であった。母親はいった。
「ほんとに彼《あ》の子は馬鹿だよ。」
呉が女に逢ってみようといいだした。そこで母親が室の中へ呼びにいった。嬰寧はまだ大笑いに笑っていてこっちを向かなかった。
「ちょっとおいでなさいよ。逢わせる人があるから。」
嬰寧は始めて力を入れて笑いをこらえたが、また壁の方に向ってこみあげて来る笑いをこじらしているようにしていて、時を移してからやっと出たが、わずかに一度お辞儀をしたのみで、もうひらりと身をかえして室の中へ入って、大声を出して笑いだした。それがために家中の婦《おんな》が皆ふきだした。
呉はその不思議を見きわめて、異状がなければ媒酌人《ばいしゃくにん》になろうといって、西南の山の中の村へ尋ねていった
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