に私の甥《めい》なの。」
 嬰寧はいった。
「私、お母さんの子じゃないの。お父様は秦という苗字なの。お父様の没《な》くなった時、私、あかんぼでしたから、何も覚えはありませんの。」
 王親はいった。
「そういえば、私の一人の姉が、秦《しん》へ嫁入ってたことは確かだが、没くなってもう久しくなっているのに、なんでまた生きているものかね。」
 そこで顔の恰好や痣《あざ》や贅《いぼ》のあるなしを訊いてみると一いち合っている。しかし母親の疑いは晴れなかった。
「そりゃ合ってるがね。しかし没くなって、もう久しくなる。どうしてまた生きているものかね。」
 判断がつきかねている時、呉が来た。嬰寧は避けて室の中へ入った。呉は理由を聞いて暫くぼんやりしていたが、忽《たちま》ちいった。
「女は嬰寧といいやしないかい。」
「そうだよ。」
 と王がいった。呉は、
「いや、そいつは、怪しいよ。」
 といった。王は呉が女の名を知っていることを先ず聞きたかった。
「君はどうしてその名を知っているね。」
「秦の姑《おば》さんが没くなった後で、姑丈《おじ》さんが鰥《やもめ》でいると、狐がついて、瘠《や》せて死んだが、その狐
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