の愛じゃないよ、つまり夫婦の愛だよ。」
嬰寧はいった。
「親類の愛だっておんなじじゃないの。」
「夫婦になったら一緒にいるのだよ。」
嬰寧は俯向《うつむ》いて考えこんでいたが、暫《しばら》くしていった。
「私、知らない人と一緒にいたことないわ。」
その言葉のまだ終らない時に、婢がそっとやって来たので、王はあわてて逃げた。
暫くして王と女は、老婆の所で逢った。老婆は嬰寧に訊いた。
「どこへいってたね。」
嬰寧はいった。
「庭で話していたわよ。」
老婆はいった。
「とうに御飯ができてるのに、何の話をしていたのだよ。またお喋りをしていたのだろう。」
嬰寧はいった。
「兄さんが私と一緒に……。」
王はひどく困って急に嬰寧に目くばせした。嬰寧はにっと笑ってよした。しかし幸にしてそれは老婆に聞えなかったが、そのかわり老婆はくどくどと嬰寧の長く帰らなかった理由を訊いた。そこで王は他のことをいって打ち消し、そのうえで小声で嬰寧を責めた。
「あんな馬鹿なことをいうものじゃないよ。」
すると嬰寧がいった。
「あんなことをいってはいけないの。」
王はいった。
「そんなことをいうのは、人に
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