背《そむ》くというのだよ。」
 嬰寧はいった。
「他人に背いても、お祖母《かあ》さんには背かれないわ。それに一緒にいることなんて、あたりまえのことじゃないの、何も隠さなくってもいいじゃないの。」
 王は嬰寧に愚《おろ》かな所のあるのを残念に思ったが、どうすることもできなかった。
 食事がちょうど終った時、王の家の者が二|疋《ひき》の驢《ろば》を曳《ひ》いて王を探しに来た。それは王が家を出た日のことであった。王の母親は王の帰りを待っていたが、あまり帰りが遅いので始めて疑いをおこし、村中を幾日も捜してみたがどこにもいなかった。そこで呉の家へいった。呉はでたらめにいった自分の言葉を思いだして、西南の山の方へいって尋ねてみよと教えた。家の者は幾個かの村を通って始めてここに来たのであった。王は門を出ようとして、その人達に逢ったのであった。王はそこで入っていって老婆に知らし、そのうえ嬰寧を伴《つ》れて帰りたいといった。老婆は喜んでいった。
「私がそう思っていたのは、久しい間のことだよ。ただ私は、遠くへいけないから、お前さんが伴れて、姨《おば》さんに見知らせてくれると、好い都合だよ。」
 そこで老婆
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