がまたおこった。嬰寧は樹にかきつくようにして笑って歩くこともできなかったが、暫くしてやっとやんだ。
 王は嬰寧の笑いやむのを待って、袖の中から彼の萎《しお》れた梅の花を出して、
「これを知ってるの。」
 といった。嬰寧は受け取っていった。
「枯れてるじゃないの。なぜ、こんな物を持ってるの。」
「これは上元の日に、あんたがすてたものじゃないか。だから持っているのだよ。」
「持っててどうするの。」
「あんたを愛するためだよ。上元の日にあんたに逢ってから、思いこんで病気になって、もう死ぬるかと思ったのだよ。それがこうして逢えたから、気の毒だと思っておくれよ。」
 嬰寧はいった。
「そんなことなんでもないわ。親類の間柄ですもの、兄さんがお帰りの時、老爺《じいや》を呼んで来て、庭中の花を大きな篭《かご》へ折らせて、おぶわしてあげますから。」
 王はいった。
「馬鹿だなあ。」
 嬰寧はいった。
「なぜ、馬鹿なの。」
 王はいった。
「私は花が好きじゃないよ、花を持っていた人が好きなのだよ。」
 嬰寧はいった。
「親類じゃないの、愛するのはあたりまえだわ。」
 王はいった。
「私が愛というのは、親類
前へ 次へ
全25ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング