りないといったのは、それだよ。年はもう十六だのに、まるで、嬰児《あかんぼ》のようだよ。」
 王はいった。
「私より一つ妹ですね。」
 老婆はいった。
「おお、お前さんは、もう十七か。お歳になるのだね。」
 王はうなずいた。
「そうですよ。」
 老婆が訊いた。
「お前さんのお嫁さんは、何という人だね。」
「まだありませんよ。」
「お前さんのような才貌《きりょう》で、なぜ十七になるまでお嫁さんをもらわないね。嬰寧もまだ約束もないし、まことに良い似合だが、惜しいことには身内という、かかわりがあるね。」
 王は何もいわずに嬰寧をじっと見ていて、他へ眼をやる暇がなかった。婢は女に向って小声で囁《ささや》いた。
「眼がきょろきょろしていますから、まだ盗賊《どろぼう》がやまないでしょう。」
 女はまた笑いながら娘を見かえって、
「花桃が咲いたか咲かないか、見て来ようよ。」
 といって、急いで起ち、袖を口に当てながら、刻み足で歩いていった。そして門の外へ出たかと思うと崩れるように大声を出して笑った。老婆も体を起して、婢を呼んで王のために夜具の仕度をさしながら王にいった。
「お前さん、ここへ来るのは容易
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