いうままに膳について食べてしまうと、婢が来て跡始末をした。老婆はその婢にいった。
「寧子を呼んでお出で。」
「はい。」
 婢が出ていってからやや暫くして、戸外《そと》でひそかに笑う声がした。すると老婆は、
「嬰寧《えいねい》、お前の姨《おば》さんの家の兄さんがここにいるよ。」
 といった。戸外では一層笑いだした。それは婢が女を伴《つ》れにいっているところであった。婢は女を推《お》し入れるようにして伴れて来た。女は口に袖を当ててその笑いを遏《と》めようとしていたが遏まらなかった。老婆はちょと睨《にら》んで、
「お客さんがあるじゃないかね。これ、これ、それはなんということだよ。」
 といった。女はやっと笑いをこらえて立った。王はそれにお辞儀をした。老婆は女に向っていった。
「これは王さんといって、お前の姨さんの子供だよ。一家の人も知らずにいて、人さまを笑うということがありますか。」
 王は老婆に、
「この方はおいくつです。」
 と女の年を問うた。老婆にはそれが解らなかったので、王はまた繰りかえした。すると女がまた笑いだして顔をあげることができなかった。老婆は王に向っていった。
「私の躾がた
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