女はにっと笑いながら彭の手に自分の手をかけた。彭はきまりが悪いので、微笑するだけで何も言えなかった。
「すこしお眼にかからない間に、こんなにお痩せになりまして」
 女はこう言ってから傍に立っていた女の子の顔を見た。
「あの碧霞漿《へきかしょう》を一杯持っておいで」
 女の子はちょっと頭をさげて次の室《へや》へ行ったが、すぐ盃を捧げ持ってきた。彭と手をとり合っていた女は、一方の手にそれを取って彭に渡した。それは紺碧の色をした甘い匂いのする物であった。
「これは緑蕚夫人《りょくがくふじん》から戴いた物でございます」
 彭はそれを飲みながら不思議な周囲《まわり》にその眼を向けた。
「此所は何所でしょう」
「此所は広寒香界《こうかんこうかい》でございます、あなたのような俗人は、長く此所にいることはできないのです、早くお帰りなさい」
 女は冗談に言って笑った。彭はもう何の遠慮もいらなかった。彼はいきなり女を抱きあげて綺麗な帷《とばり》の垂れている室の中へ入って行った。
 已而菌縟流丹、女屡乞休始止。彭と女とはその後で話をした。彭は匂いのある女の体を撫でながら言った。
「貴女は、合徳《ごうとく
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