の子はすぐ眼の前にあった朱塗の大きな門を入って、玉を敷いてあるような綺麗な路を行った。路の両側には花をつけた草や木が一めんに生えていた。椿のような花の木もあれば、牡丹のような大きな花をつけた草もあった。白い花をつけた高い木には、凌宵花《のうぜんかずら》のような黄いろな蔓草の花が星の落ちてきてかかったように咲いていた。花の梢から宮殿の簷が見えていた。
路は爪さきあがりにあがっていた。その路をすこし歩いていると、すぐなだらかな路になった。と、洞穴の口のように見える建物の入口がきた。その入口には「水晶城」とした額がかかっていた。建物の周囲には水があって、白や紅の蓮の花が月の光の中の下に夢見るように咲いていた。水に臨んで朱塗の欄干も見えていた。
女の子はその中へ入って行った。彭もそれに随いて行った。其所は窓という窓は皆水晶で、それに青白い月の光が射していた。公主といわれているかの女は欄干に凭《もた》れて月を観ていた。
「あの方《かた》を、お供してまいりました」
かの女は此方を見るなりすぐ体を起して寄ってきた。
「好奇《ものずき》の坊ちゃん、この四五日は、お見えにならないじゃありませんか」
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