彭は相手になるのが面倒であったから、ぐるりと寝返りして壁の方を向いた。
「貴郎《あなた》が、この間、水仙廟の所でお逢いになりました、公主からのお迎えでございます」
彭は急に体を起した。
「水仙廟で逢った公主というのですか」
「そうでございます、公主から貴郎のお供をしてくるようにという、お使いでございます」
「公主とは、どうした方です」
「いらしてくだされたら、お判りになります」
「では、行ってみましょう」
彭は起きて着物を調《ととの》えると、女の子は前《さき》に立って行った。外には月が出て涼しい風が吹いていた。燈籠の灯はその月の光にぼかされて黄いろく見えていた。
彭は生き返ったような軽い気もちになっていた。路は彼方に曲り此方に曲って行った。
「やっとまいりました」
彭はその声に顔をあげて見た。水仙廟の後ろと思われる山の麓に楼閣が簷《のき》を並べていた。女を尋ねて毎日水仙廟のあたりから孤山の頂にかけて歩いていた彭は、そんな楼閣を見たことがなかったので驚いた。
「公主のいらっしゃる所は、別院でございます、私がまいりますから、そっといらっしてくださいまし」
彭はうなずいてみせた。女
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