荷花公主
田中貢太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)南昌《なんしょう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)ある日|西湖《せいこ》の縁を歩いていた
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 南昌《なんしょう》に彭徳孚《ほうとくふ》という秀才があった。色の白い面長な顔をした男であったが、ある時、銭塘《せんとう》にいる友人を訪ねて行って、昭慶寺《しょうけいじ》という寺へ下宿していた。
 その彭は、ある日|西湖《せいこ》の縁を歩いていた。それは夏の夕方のことで、水の中では葉を捲いていた蓮の葉に涼しい風が吹いて、ぎらぎらする夕陽の光も冷たくなっていた。聖因寺《せいいんじ》の前へ行ったところで、中から若い眼のさめるような女が出てきた。十七八に見える碧《あお》い着物を着た手足の細《ほっ》そりした女で、一人の老婆が後からきていた。その女の眼はちらと彭の顔へきた。
「あなたは、何所《どこ》からいらっしたのです」
 彭が声をかけると女は恥かしそうに顔を赤らめたが、そのままその顔を老婆の方へやって、
「婆や、早く行きましょうよ」
 と言ってからむこうのほうへ歩いた。彭は引きずられるように
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