老婆の後から随《つ》いて行った。
 すこし行くと女は斜に後ろを振り返って、老婆の横から彭を覗くようにした。女の気配に彭は顔をあげたが、その拍子に女の視線と視線が合った。女はきまり悪そうにあわてて前《むこう》をむいて歩いた。
 女の眼の色に親しみを見出した彭は、非常に気が強くなってそのまま随いて行ったが、女も老婆も不思議に足が早いので、路の曲っている所などでは、ときどき二人の姿を見失いそうになった。
 彭はすこしも油断することができなかった。孤山の麓にある水仙廟がすぐ眼の前に見えてきた。もう陽が入って西の空が真赤に夕映えていた。女と老婆は水仙廟の手前から廟に沿うて折れて行った。その二人の顔に夕映の色がうっすらと映っていた。
 みるみる女と老婆は水仙廟の後ろへ行ったが、そのまま見えなくなった。彭は女の姿が見えなくなると、小走りに走って廟後へ着くなり、ぴったり走ることを止めて、そのまわりに注意して廻ったが、何所へ行ったのかもう影も見えなかった。
 彭はしかたなしに其所《そこ》へ立ち止った。いつの間にか夕映も消えて四辺《あたり》が微暗《うすぐら》くなった中に、水仙廟の建物が黒い絵になって見えて
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