きた女は彭の傍へ寄るなりその背を撫でさすりながら泣いた。そして彭の枕頭にいる女に指をさして罵った。
「この悪魔、私の所夫《おっと》をこんなにしておいて、まだひどいことをしようというのか」
彭は二人の顔を見較べてみたが、顔から髪から着物の色合から何方がどうとも識別《みわけ》ることができなかった。
「二人とも何も言うな、俺はもうすぐ死んじまうのだ」
入ってきた女はまた声を出して泣きだしたが、急になにか思いだしたようにそのまま走って出て行った。
彭はそのままぐったりとなっていた。それは夕方であった。さっきの女が侍女を連れて、それに体の真黒な頂の丹《あか》い鶴を抱かして入ってきた。と、彭の傍にいた女は体が萎縮したようになって其所へ倒れてしまった。侍女は鶴を放した。その鶴の嘴は倒れた女の頭へ行った。女の姿は白い大きな蛇になった。鶴の嘴はその蛇の腹へ行った。蛇の腹からは小さな玉が出て転がった。女はその玉を拾ってから彭の眼の前に出した。
「これは、雷峰塔の蛇が、私に化けていたものですよ、私が舅さんに随いて、瑤池《ようち》へ行って、王母にお眼にかかっている留守に、貴郎をたばかったものですよ、この
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