ゃいけません、私もごいっしょにまいります」
 二人は其所から引返して判官の前へ行った。判官は女の体が弱いと言って、いっしょに行くことを許さなかった。
「これは体が弱いから遠くへは行けない、しかし、お母さんの病気は、もう好くなっているから心配はないが、貴君は子として一度は帰ってくるがいいだろう」
 判官は一粒の丸薬を出して彭に渡した。
「帰ったらこれをお母さんに飲ますがよい、これを飲むと決して年を取らない」
 彭は一人で帰ることにして女に言った。
「秋にはきっと帰ってくる」
 すると女は涙を見せて言った。
「この二三ヶ月、お腹の具合が変でございます、どうか忘れずにいてください」
 彭はその日出発して故郷へ帰ったが、帰ってみると母の病気は癒っていた。彭は母を連れて銭塘の方へこようとしたが、母が遠くへ出るのを嫌うので、一人で引返して聖慶寺《せいけいじ》に寄り、翌日水仙廟の後ろへ帰って行った。
 簷を並べていた楼閣は影もなくなって榛莽《しんぼう》が一めんに繁っていた。彭はもし方角が違ったのではないかと思って、その辺を捜してまわったが、他にそれらしい建物も見えなかった。
 そのうちに日が暮れかけ
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