ていた。
「ああ、眠い、眠い、眠くてしかたがないぞ」
 夢心地になって華表の下まで来たところで、もう一歩も歩かれなくなったので、そのまま其処へころりと寝てしまった。
 ちょうどその時、二人の旅人が華表の近くへ来て休んでいたが、あまり寒いので、一方の旅人が、
「どうだ、火を焼《た》こうか」
 と云うと、一方の旅人も、
「いいだろう」
 と云って、さっそく二人で枯枝を集め、腰の燧石《ひうち》で火を出して、それを枯枝に移して暖まりながら話しこんでいるうちに、強い風が吹いて来た。旅人はあわてて、
「こりゃ、いかん」
「燃えひろがっては、たいへんだ」
 と云って、二人で火を踏み消そうとしたが、火は消えないでみるみる傍の枯草に燃え移り、それから立木に燃え移った。旅人はますますあわてて、木の枝を折って来て叩き消そうとしたが、火はますます燃えひろがるばかりで、手のつけようがなかった。
「こりゃ、いかん、村の者に見つかったら、たいへんだ」
「そうだ、たいへんだ、逃げよう」
 二人はしかたなしに逃げて往った。その時来宮様に使われている雉《きじ》がいた。雉は森へ火の移ったのを見ると、これも旅人以上に驚いて、
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