金+祿のつくり)」、第3水準1−89−79]《かじふだ》にかけちゃ、天下一じゃ」
 喬生は家へ帰るのが恐ろしいので、その晩は老人の許へ泊めてもらって、翌日玄妙観へ出かけて行った。魏法師は喬生の顔を遠くのほうからじっと見ていたが、傍近くへ行くと、
「えらい妖気だ、なんと思ってここへ来た」
 喬生は驚いた。そしてなるほどこの魏法師は豪《えら》い人であると思った。彼はその前の地べたへ額を擦りつけて頼んだ。
「私は邪鬼に魅いられて、殺されようとしているところでございます、どうかお助けを願います」
 魏法師は喬生から理由を聞くと朱符を二枚出した。
「一つを門へ貼り、一つを榻《ねだい》へ貼るがいい、そして、これから、二度と湖心寺へ行ってはならんよ」
 喬生は家へ帰って、魏法師の言ったように朱符を門と榻へ貼ったところで、怪しい女はその晩から来なくなった。

 一月ばかりすると、喬生の恐怖もやや薄らいできた。彼はある日、袞繍橋《こんしゅうきょう》に住んでいる友達のことを思い出して訪ねて行った。友達は久しぶりに訪ねてきた喬生を留めて酒を出した。
 二人はいろいろの話をしながら飲んでいるうちに、夕方になっ
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