て女を追い越したが、女と親しみがなくなるような気がするので、足を遅くして女の行き過ぎるのを待って歩いた。と、女は振り返って笑顔を見せた。彼は女と自分との隔てがなくなったように思った。
「燈籠を見にいらしたのですか」
「はい、これを連れて見物に参りましたが、他に知った方はないし、ちっとも面白くないから帰るところでございます」
女は無邪気なおっとりした声で言った。
「私は宵からこうしてぶらぶらしているのですが、なんだか燈籠を見る気がしないのです、どうです、私の家は他に家内がいませんから、遠慮する者がありません、すこし休んでいらしては」
「そう、では、失礼ですが、ちょっと休まして戴きましょうか、くたびれて困ってるところでございますから」
と言って、燈籠を持った少女の方を見返って、
「金蓮《きんれん》、こちらでちょっと休まして戴きますから、お前もおいで」
少女は引返してきた。
「すぐ、その家ですよ」
喬生は自分の家の方へ指をさした。少女は燈籠を持って前《さき》へ立って行った。二人はその後から並んで歩いた。
「ここですよ」
三人は喬生の家の門口へきていた。喬生は扉《と》を開けて二人の女
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