に行ってしまったが、間もなく、喬生、麗卿、金蓮の三人の邪鬼に枷鎖《かせ》をして伴れてきた。
 武士は邪鬼にそれぞれ鞭を加えた。邪鬼は血塗《ちまみ》れになって叫んだ。
「その方どもは、何故に人民を悩ますのじゃ」
 道人はまず喬生からその罪を白状さして、それをいちいち書き留めさした。その邪鬼の口供の概略をあげてみると、喬生は、
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伏して念《おも》う、某、室《しつ》を喪って鰥居《かんきょ》し、門に倚って独り立ち、色《しき》に在るの戒を犯し、多欲の求を動かし、孫生が両頭の蛇を見て決断せるに効《なら》うこと能《あた》わず、乃《すなわ》ち鄭子《ていし》が九尾の狐に逢いて愛憐するが如くなるを致す。事既に追うなし。悔ゆとも将《は》た奚《なん》ぞ及ばん。
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 符女は、
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伏して念《おも》う、某、青年にして世を棄て、白昼《はくちゅう》隣《りん》なし。六魄離ると雖《いえど》も、一霊未だ泯《ほろ》びず、燈前月下、五百年歓喜の寃家《えんか》に逢い、世上民間、千万人風流の話本《わほん》をなす。迷いて返るを知らず、罪|安《いずく》んぞ逃るべき。

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