ていた。道度はうっとりとなっていた。
「あなたは、私をどんな者と思います」
道度は主婦の素性《すじょう》などはどうでもよかった。
「私はまだ、あなたが、どういう方であるかというようなことを、考えたことはありません」
「私は秦《しん》の閔王《びんおう》の女《むすめ》でございましたが、この曹《そう》の国に迎えられてきて、二十三年間、独りでおる者でございます」
道度はそうした貴族と同席することを名誉に感じた。
「あなたがお厭でなければ、夫婦になりましょう」
「でも、あなたは、たっとい御身分の方ですから」
主婦の美しい身体は道度に寄り掛かっていた。
主婦と道度は青い帷《とばり》の陰になった榻《ねだい》の上へ並んでいた。
「こうして、あなたと、三日三|夜《ばん》おりましたが、これ以上いっしょにおりますと、災があります、これからどうか帰ってください」
主婦は力ない声で言った。
「お別れするについては、私の誠を現わすためにさしあげたい物がございます」
主婦は榻の後ろの小箱へ手をやって、その中から黄金の枕を出した。
「これをさしあげます、お持ちになってください」
こう言って主婦はまた泣
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