黄金の枕
田中貢太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)辛道度《しんどうと》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)三日三|夜《ばん》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「馬+付」、第4水準2−92−84]馬都尉《ふばとい》
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辛道度《しんどうと》は漂泊の旅を続けていた。着物は薄く懐中は無一物で、食物をくれる同情者のない時には水を飲んで餓えを凌ぎ、宿を貸してくれる処がなければ、木の葉を敷いて野宿をした。そうした窮乏の中にあっても、彼は決して気を腐らさなかった。彼の前途には華やかな着物を着た幸福が見えていた。要するに彼は若かった。
雍州城《ようしゅうじょう》の西門から五里ぐらい北の方へ往った。侘しい夕方であった。道度はその日も朝から水以外に何も口にしていないので、物をくれそうな素封家《ものもち》の家を物色して歩いた。畑の中や森陰に当って、民家の屋根がぼつぼつ見えていたが、入って往こうと思うような家はなかった。しかし、そんな目
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