の壁などが彼にいい気もちを起さした。
「御主人は、こちらにおいでなさいます」
女は扉を開けた。道度はきまりが悪いのでもじもじしながら入った。
室《へや》の真中には、体のほっそりした綺麗に着飾った女が牀《しょうぎ》に腰を掛けていた。室の隅ずみには雲母《きらら》の衝立がぎらぎら光っていた。道度は遠くの方からおじぎをした。
「この方が、今、お願いした、書生さんでございます」
女はこう言って主婦に紹介した。
「さあ、どうぞ、この家は私一人でございますから、御遠慮なさることはございません、そこへお掛けくださいまし、すぐ何か造《こしら》えさしますから」
主婦はちょっと腰を浮かして、自個《じぶん》の前の牀へ指をさした。
「は、私は隴西の者で、辛道度と申します、こうして、遊学しておりますが、路用が乏しいものですから、皆様に御厄介になっております、突然あがりまして恐縮します」
道度はまぶしいような顔をして立った。
「そのことは、もう、これから伺っております」
と、言って主婦は女の方をちらと見た。
「さあ、そこへお掛けくださいまし」
道度はやっと主婦の前へ往って腰を掛けた。それを見ると女は出
前へ
次へ
全8ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング