ると、それは細君の死んだ日であった。庭で酒を飲んだときのことを思いだしてみると、ちょうど四十三箇月目に当っていたからひどく不思議に思って、その手紙を黄英に見せて、
「何所へ結納《ゆいのう》をあげましょう」
 といって訊くと、黄英は、
「結納はおもらいしません」
 と言った。黄英は馬の家がきたないので、南の家におらして入婿のようにしようとしたが、馬はきかないで日を選んで黄英を自分の家へ迎えた。
 黄英はすでに馬の所へ往ってから、壁に扉を開けて南の家へ通えるようにした。そして毎日往って、自分の家の僕に言いつけていろいろの為事《しごと》をさした。馬は細君に金のあるのを恥じて、いつも黄英に言いつけて南の家と北の家の帳簿をこしらえさして、物のごたごたになるのを防がしたが、黄英は家に入用なものは、ややもすると南の家から取ってくるので、半年もしないうちに家の中にあるものは、皆陶の家のものばかりになった。馬はすぐに人をやって一いちそれを持ち帰らした。
「二度と取ってくるな」
 といって戒めたが、まだ十日もたたないうちに雑《まじ》っていた。こんなことが幾回もくりかえされたので、馬はうるさくてたまらなかっ
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