た。黄英は笑って言った。
「陳仲子、くたびれはしませんか」
 馬ははじてまたとしらべなかった。そして、一切のことは黄英に聴くようになった。黄英は大工を集め建築の材料をかまえて、工事を盛んにやりだしたが馬は止めることができなかった。二三箇月すると両方の家が一つに連なって、彊界《きょうかい》が解らなくなった。しかし、黄英は馬の教えに遵《したご》うて、門を閉じてまたと菊を商売にしないようになった。けれどもくらしむきは、家柄の家にも勝っていた。馬は自ら安んずることができないので、
「俺の三十年の清徳も、おまえのために累《わずら》わされてしまったのだ、この世の中に生きていて、徒《いたず》らに女に養われるということは、ほんとうに、すこしも男らしくないことだ、人は皆富をいのるけれども、俺はただ貧をいのるのだ」
 と言った。黄英は言った。
「私は金を貪るつもりはないのですが、ただすこし豊かにならないと、後世の人に、あの淵明は貧乏性だ、いつまでも世に出ることができなかったじゃないかと言われるのですから、それで我家《うち》を豊かにしていいわけにしたのです、だけど、貧乏人が金持になろうとするのはむつかしくっ
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