かくしているのが恨めしくもあって、とうとう逢って誚《せ》めてやろうと思って扉を叩いた。すると陶が出てきて手をとって曳き入れた。
見ると荒れた庭の半畝位は皆菊の畦《あぜ》になって小舎の外には空地がなかった。抜き取った跡には別の枝を折って※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]してあった。畦に在る花で佳くないものはなかった、そして、細かにそれを見ると皆自分がいつか抜いて棄てたものであった。陶は内へ入って酒と肴を持ってきて、畦の側に席をかまえ、
「僕は清貧に安んずることができなかったのですが、毎朝幸いにすこしばかりの金が取れますので、酔っていただくことができます」
と言った。暫くして房《へや》の中から、
「三郎」
といって呼んだ。陶は、
「はい」
と返事をして出て往ったが、すぐに立派な肴を出してきた。それは手のこんだ良い料理であった。馬はそこで、
「姉さんは、なぜ結婚しないのですか」
といって訊いた。陶は答えて言った。
「時機がまだこないのです」
馬は訊いた。
「いつです」
陶は言った。
「四十三箇月の後です」
そこで馬は、
「どういうわけです
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