今そんなことを言うのは、風流をもってあきないとするもので、菊を辱めるというものだね」
 すると陶は笑って言った。
「自分の力で喫ってゆくことは、貪《むさぼ》りじゃあないのです、花を販《う》って、生計をたてることは、俗なことじゃないのです、人はかりそめに富を求めてはならないですが、しかし、また務めて貧を求めなければならないこともないでしょう」
 馬がそれっきり口をきかないので、陶も起って出て往ったが、それから陶は馬の所で寝たり食事をしたりしないようになった。呼びにやるとやっと一度位は来た。その時から陶は馬の棄ててある菊の枝の残りや悪い種のものを悉く拾って往くようになった。
 間もなく菊の花が咲いた。馬は陶の家の門口が市場のようにやかましいのを聞いて、へんに思って往って窺《のぞ》いてみた。そこには市《まち》の人が集まってきて菊の花を買うところであった。そしてその人達が車に載せたり肩に負ったりして帰って往くのが道に続いていた。その花を見るに皆かわり種の珍しいもので、馬のまだ一度も見たことのないものであった。馬は心に陶が金を貪るのを厭《いと》うて絶交しようと思ったが、しかしまたひそかに佳い木を
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