馬が返事をして、とうとういっしょに伴れだって帰ってきた。
馬の家の南に荒れた圃《はた》があって、そこに椽《たるき》の三四本しかない小舎《こや》があった。陶はよろこんでそこにおって、毎日北の庭へきて馬のために菊の手入れをした。菊の枯れたものがあると、根を抜いてまた植えたが、活きないものはなかった。
しかし家は貧しいようであった。陶は毎日馬といっしょに飯を喫《く》っていたが、その家の容子《ようす》を見るに煮たきをしないようであった。馬の細君の呂は、これまた陶の姉をかわいがって、おりおり幾升《いくます》かを恵んでやった。陶の姉は幼名を黄英《こうえい》といっていつもよく話をした。黄英は時とすると呂の所へ来ていっしょに裁縫したり糸をつむいだりした。
陶はある日、馬に言った。
「あなたの家も、もともと豊かでないのに、僕がこうして毎日厄介をかけているのですが、いつまでもこうしてはいられないのです、菊を売って生計《くらし》をたてたいとおもうのですが」
馬は生れつき片意地な男であった。陶の言葉を聞いてひどく鄙《いやし》んで言った。
「僕は、君は風流の高士で、能《よ》く貧に安んずる人と思ってたが、
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