少年は驢《ろば》に乗って幕を垂れた車の後から往っていたが、その姿がきりっとしていた。だんだん近くなって話しあってみると、少年は自分で陶《とう》という姓であると言ったが、その話しぶりが上品で趣があった。そこで少年は馬の旅行しているわけを訊いた。馬は隠さずにほんとうのことを話した。すると少年が言った。
「種に佳くないという種はないのですが、作るのは人にあるのですから」
そこでいっしょに菊の作り方を話しあった。馬はひどく悦《よろこ》んで、
「これから何所《どこ》へいらっしゃるのです」
と言って訊いた。少年は、
「姉が金陵を厭がりますから、河北《かほく》に移って往くところです」
と答えた。馬はいそいそとして言った。
「僕の家は貧乏ですが、榻《ねだい》を置く位の所はあります、きたなくておかまいがなけりゃ、他《ほか》へ往かなくってもいいじゃありませんか」
陶は車の前へ往って姉に向って相談した。車の中からは簾《すだれ》をあげて返事をした。それは二十歳《はたち》ばかりの珍しい美人であった。女は陶を見かえって、
「家はどんなに狭くてもかまわないけど、庭の広い所がね」
と言った。そこで陶の代りに
前へ
次へ
全15ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング