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恩情功名を把りて誤らず
離筵《りえん》また金縷《きんる》を歌う
白髪の慈親《じしん》
紅顔の幼婦
君去らば誰あって主たらん
流年|幾許《いくばく》ぞ
況《いわ》んや悶々愁々
風々雨々
鳳《ほう》拆《くだ》け鸞《らん》分《わか》る
未だ知らず何《いず》れの日にか更に相《あい》聚《あつま》らん

君が再三|分付《ぶんぷ》するを蒙り
堂前に向って侍奉《じほう》す
辛苦を辞するを休《や》め
官誥《かんこう》花を蟠《ばん》し
宮袍《きゅうほう》錦《にしき》を製す
妻を封じ母を拝するを待たんことを要す
君|須《すべか》らく聴取すべし
怕《おそ》る日西山に薄《せま》って愁阻を生じ易きことを
早く回程《かいてい》を促して
綵衣《さいい》相対《あいたい》して舞わん
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 歌が終った時ぶんには、皆の眼に涙が光っていた。趙を載せて往く舟は、門の前に纜《ともづな》を解いて待っていた。
 趙は酔に力を借って別れを告げて舟へ乗った。愛卿は趙を送って岸へ出て、離れて往く舟に向って白い小さい手端《てさき》を見せていた。

 趙はやがて大都へ往った。往ってみると尚書は病気で官を
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