ょう。先には先祖の徳が厚くて、及第者の名簿に乗っていたのですから、身を委《まか》してましたが、今は奥さんを棄てたために、冥官《あのよのやくにん》から福を削られたのです。今年の試験の亜魁《あかい》になる王昌はあなたの名に替るのです。私はもう鄭に片づきましたから、私のことを心配してくださらなくってもいいのです。」
景は俯向《うつむ》いたままで何もいうことができなかった。女は驢に鞭を加えて飛ぶように往った。景はそれを見て嘆き悲しむのみで如何ともすることができなかった。
その年の試験に景は落第して、亜魁すなわち経魁五人に亜《つ》ぐの成績を得たのは果して王昌であった。鄭も及第した。景はそれがために軽薄だという名がひろまった。
四十になっても景は細君がなかった。家はますます衰えて、いつも友達の家へいって食事をさしてもらっていた。ある時ふと鄭の家へいった。鄭は款待《かんたい》して泊っていかした。阿霞は客を窺《のぞ》いて景を見つけ、それを憐んで鄭に訊いた。
「お客さんは景慶雲ではありませんか。」
鄭はそこで阿霞[#「阿霞」は底本では「阿震」]にどうして知っているかと訊いた。阿霞はいった。
「ま
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